イブキの短編小説

1000字短編集・素朴な暮らしの欠片を拾う

もらうひと【短編】

鼻の奥で枯れ葉が蠢くようなくすぐったさを感じて五回続け強烈なくしゃみ。喉のあたりに焚火が行われているような熱い痛みを感じる。ほくほくで優しい甘さをもった焼き芋を舌の上で堪能した後に喉に滑り込ませたならたちまちこの季節風邪も癒えるだろう。筋肉の制御ができなくなる大きなくしゃみの影響で一、二歩と足がよろけるとパチンコの広告チラシが挟まったポケットティッシュが差し出された。丁度マスクの中では鼻水が垂れていたから有難く受けとり、道路の隅で鼻をかんだ。

会社に到着するとデスクの上に小さなパンプキン型の容器が置いてあった。清掃の峰さんが社員全員分用意してくれたらしい、と隣の伊藤が飴玉を舐めながらの変な発音で嬉しそうに教えてくれた。

俺はパンプキンの中からチビカツという駄菓子を選んで食べてみた。駄菓子なのに思ったより衣がサクサクしていて、嚙むたびにソース味の油がじゅわじゅわ滲みだだすのが旨い。

マスクをつけなおし仕事にとりかかってしばらくすると、喉の猛烈な渇きを感じられた。指先のかじかみも和らぎやっと調子づいてきた頃だったから席を立ちあがるのが惜しく、応急措置で唾を生成しようとしたが飲み込めるほどの量にならない。それでも甘んじて飲み込むと乾いた喉がギュッと音を立て絞られ、余計酷い目を見てしまった。

観念して自動販売機で冷たい緑茶を買うと当たりが出ていちごミルクが追加された。甘い飲み物は余計に喉が渇くから飲みはしないが気分は良い。

寒くなってきたら夕飯は鍋一択だろう。八百屋で白菜を買うと、鼻水をすする俺を見かねておじちゃんがリンゴをおまけでつけてくれた。日が沈むと一層に寒くなり肩と歩幅を縮めると、エノキを買い忘れたことに気づいてしまった。一度気にかかると妥協できない性格が俺を最寄りのスーパーに招き入れると、「祝・来客一万人達成」と書かれた垂幕が頭上に降りてきた。

優しい曲線のしわが刻まれた店長と握手をして記念撮影を終えると、店の、鳥に似たゆるキャラのぬいぐるみを渡された。

帰宅して今日貰った全てのものを詰め込んだエコバックを、思わぬ待ちぼうけをくらい仁王立ちで待っていた息子に手渡した。すると息子は中身を確認せずへの字に曲がった口角をきゅんと引き上げ笑う。貰うって、渡すってこういうことだよな。