イブキの短編小説

1000字短編集・素朴な暮らしの欠片を拾う

2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

姉の餃子【短編】

朝の灰色と打って変わり、午後6時を回った駅のあたりはほんのりとオレンジに染まっていた。電源が切られた電子ピアノの鍵盤を叩いた時のように素っ気なく空虚な音だった今朝の足音も、今では愉快な曲に混じるリズミカルな打楽器のように弾んでいる。ピンクと…

それを知る前の自分にはもう戻れない【短編】

汗にまみれ、吸っているのか吐いているのか分からなくなるほど呼吸のリズムを乱した私を前に、それは呆気なく閉じた。加速度を上げて動き出した電車は大げさに風を起こして、私の鎖骨に溜まった汗を嫌みたらしく冷やしながら去っていった。登校時刻の1時間前…