イブキの短編小説

1000字短編集・素朴な暮らしの欠片を拾う

2021-11-01から1ヶ月間の記事一覧

理想の年明け【短編】

湿った土を踏む足音が連なって聞こえている。深い夜か浅い朝と呼ぶべきか、午前四時頃に黙々と山を登る一行の足音だ。十数人が列を組み、うねうねと山道をなぞる様子はきっと一匹の大蛇にも見えよう。どこを見ても色彩の乏しい景色は変わらないので私はただ…

もらうひと【短編】

鼻の奥で枯れ葉が蠢くようなくすぐったさを感じて五回続け強烈なくしゃみ。喉のあたりに焚火が行われているような熱い痛みを感じる。ほくほくで優しい甘さをもった焼き芋を舌の上で堪能した後に喉に滑り込ませたならたちまちこの季節風邪も癒えるだろう。筋…

しなしな【短編】

糸がほつれ、もう自立できずしなしなと壁に体を預けるだけの薄汚れたリュックサックの口から、噴水のように白菜と長ネギが飛び出ている。やがて白菜の重みに耐えかねて倒れたリュックからゴロゴロとにんじんが転がり出た。 目に入った人間から喰らいつく巨人…

図書室で会いましょう【短編】

朝、教室に入ると数人の女の子達が私の机を囲み楽しそうに背中を揺らして談笑しているのが見える。周囲から隔てたように隠された机の上にあるのは一冊の中高生向けファッション雑誌だ。持ち込み禁止のそれに載った流行している服やメイクについて話し合うの…