イブキの短編小説

1000字短編集・素朴な暮らしの欠片を拾う

2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧

Hello Future【短編】

やあ、聞こえるかい? 僕と君が出会う、遥か遠い未来からこの思いを届けるよ。聞こえたら返事して。 朝の通学電車で、私たちはいつものように一つの生き物になる。私たちといっても、互いの名前も顔さえも知らないし、知る術も知らない。 ただ、互いの行き…

教えてくれない少年【短編】

ポタ、ポタ、とポニーテイルに結った髪の束から滴る水滴はゆっくりと背中を冷やしていく。 前から六列目、一番後ろの席に座っている私の視界に映るのは、首から上をパタリと折った5つの背中だった。 先生は、板書を終える度におやじギャグを言って、目の前…

妹にクッキーを、【短編】

まず、朝の5時から私を襲ったいくつかの感情に順序をつけて1つずつ解決していく必要があった。怒りと疑い、そしてまた、焦りと悲しみは両立できるはずがないのだから。冷蔵庫からの冷気は2月の朝の部屋にじんわりと滲んで、そこには境界がなくなっていた。…