イブキの短編小説

1000字短編集・素朴な暮らしの欠片を拾う

2021-08-29から1日間の記事一覧

春の地図【短編】

始めて地図を使ったのは五歳の時だった。 ママチャリの後部座席しか知らなかった私はどこに行くにも、後ろから着いて行くのを常としていたが、これからは違う。小学生になればランドセルを背負い、一人で道を歩む。 幼稚園を卒園した春、母は真剣にそう言っ…

妖光【短編】

東山の長い黒髪は、まるで一枚の布のようだ。背中に垂れ下がった布は、黒板とノートを往復する彼女の視線に合わせて、陽光を受け青く光りながら揺れている。幾度、上下に彼女の背中を撫でても、毛先は水平を保ち続けていた。それはやはりラメを含んだ布のよ…