イブキの短編小説

1000字短編集・素朴な暮らしの欠片を拾う

2021-12-11から1日間の記事一覧

ある雨の日【短編】

頭の奥の方から目玉焼きが焼けるような音が聞こえて心が躍る気持ちで目を覚ましたが、それは雨の音だった。そもそも私が一人で暮らすこのアパートで誰かが目玉焼きを焼いているとしたら、心躍る以前に警戒心を持つべきだろうと徐々に冴えてくる頭で自分に言…

温度が下がる【短編】

肉付きの良い大きな体に左右から挟まれて動きを制限されたが、二の腕が伝わる湯たんぽのような熱は冬の寒さには有効活用できた。〇℃に近い冬の夜を貫くように走る黄色の電車の窓は換気のために少し開けられていて、ひゅう、と音を立て滑り込んだ細く冷たい風…